「11PM」と「ラパン」と「ガストロノミー」

──スペイン産ラパンから、食文化をちょっと考えてみる
「うさぎ」と聞くと思い出すことがあります。
そうです!伝説の深夜番組「11PM」!
サバダバサバダバ~です。
夜な夜な親に隠れて観ていたのは、私だけじゃないはず。。。
あの頃の純粋な私は、ウサギを料理するどころか食べるなんて夢にも思っていなかったわけですが。
声を大にして言います。
「うさぎは美味しい。」
ということで今回は「うさぎ」のお話。
Bistroむじかではたまに「うさぎ」をお出しします。
フランス語では「ラパン」。
料理では主に食用として飼育された家兎を指します。
野山を走り回っている野生の野ウサギ、「リエーヴル」とは別のものです。
幼稚園や学校で育てていた人も家でペットにしていた人も多いと思います。
そんなこともあり「ウサギを食べる?」
と思う人もいるかもしれません。
でも、ヨーロッパ、特にスペインでは少し違うようです。
ラパンは「珍しい肉」ではなく、昔から農村の暮らしと結びついてきた食材です。
とは言え近年はスペインでも消費量は減ってきているらしいですが。
=そもそも、ウサギの故郷はスペインあたり=
現在の家兎の祖先とされるのが、ヨーロッパアナウサギ。
その原産域は、イベリア半島を中心とする南西ヨーロッパ。
つまりスペインやポルトガルあたり。
地面に穴を掘って暮らすヨーロッパアナウサギには穴を掘りやすい土が必要。
さらに、食べる草があり、身を隠す場所も必要。
イベリア半島には、草地や低木林、農地などが入り混じった環境があり、そうした条件がウサギの暮らしに適していたと考えられています。
そんなこともあり、ウサギとスペインの付き合いはかなり長い。
どのくらい長いかというと、
実はスペインという国の名前にまでウサギが関係しているんじゃないか?という説があるくらいです。
=「スペイン=ウサギの国」って本当?=
スペインの古名「Hispania」の語源について、
フェニキア人がこの土地にたくさんいたウサギを見て、「ウサギの土地」のような意味で呼んだ。
という有名な説があります。
ストーリーとしては申し分ない。
ですが、、、
本当かどうかは、まだわかっていません。
別の語源説もあり、現在も研究者の間で決着していないそうです。
歴史ってこういうところも面白いですよね。
調べれば答えが出ると思ったら、調べるほどわからなくなる。
まぁこれは歴史に限ったことでは無いですが。
とはいえ、古代のイベリア半島にウサギがたくさんいたこと自体は、古典文献にも記録されています。
さらにローマ時代には、Hispaniaを表す女性のそばにウサギが描かれた貨幣まで作られています。
少なくとも当時のローマ人にとって、
「イベリア半島といえばウサギ」というイメージはかなり強かったようです。
=で、そのウサギを食べるようになる=
ここから食文化の話です。
ウサギは牛などの大型家畜に比べれば、それほど広い土地を必要としません。
繁殖力も高い。
一羽の大きさも、家族で食べるにはちょうどいい。
肉だけでなく毛皮も利用できます。
そんなこともありヨーロッパの農村では、暮らしに寄り添う小さな家畜として飼育されるようになっていきます。
ただ、「古代から現在のような家兎が飼われていました」という単純な話でもありません。
ウサギの家畜化は、犬や牛などと比べるとかなり新しい。
「西暦600年にフランスの修道院で家畜化された」という有名な説もありますが、現在ではかなり疑問視されています。
どうやら人間とウサギの関係は、
野生のウサギを捕る
↓
囲って管理する
↓
飼育する
↓
少しずつ人間に都合のいい個体を選ぶ
という、かなり長い時間をかけて変化していったようです。
何かきっかけがあって突然飼い始めるなんてことはそうそう無いですよね。
当たり前ですけど文化って、ゆっくり時間をかけて出来上がっていくものですからね。
=本場のパエリアにはラパンが入る=
さて、スペイン料理といえば思い出されるのが「パエリア」。
日本で「パエリア」と聞くと、
海老!
ムール貝!
イカ!
みたいな、海のイメージがありませんか?
でも、パエリアの本場バレンシアでは「鶏とラパン」が重要な具材。
パエリアはもともと、地域で手に入る肉や野菜、豆などを米と一緒に炊いた料理。
ラパンも珍しい肉だから入れたわけではなくそこにあったから入っている。
なぜ山に登るのか?
そこに山があったから
みたいな話です。
土地で手に入るものを使って暮らしていたら、それがいつしか郷土料理になった。
どこにでもある話ですね。
じゃあ、日本人はウサギを食べなかった?=
「ヨーロッパではウサギを食べるけれど、日本では食べない」
と思いがちですが、そうでもないらしい。
実は日本でも昔から野生のノウサギは食べられてきました。
肉食禁止時代にもウサギは鳥だからみたいなスティーブ・ジョブズ顔負けの
現実歪曲フィールドを展開することで食べられていたなんて話もよく聞きますね。
まぁ「やっぱり肉が好き!」
みたいです。
さらに明治時代になると、海外から家兎が入ってきて養兎が広がります。
初期にはペット用として流行した時期もありましたが、その後は肉や毛皮を取る家畜として飼育されるようになります。
大正から昭和にかけては農家の副業としても広がり、戦時期には毛皮や兎毛の需要も大きくなっていきます。
つまり日本にも、「ウサギを食べていた歴史」があるわけです。
ただ、戦後になると状況が変わります。
軍需がなくなり、鶏肉や豚肉などの産業が盛んになり流通も整っていく。
その結果、家兎を食べる文化は全国的にはだんだん薄れていきました。
一方、スペインでは米料理や煮込みなど、地域の料理の中にラパンが比較的強く残った。
まぁ元も地元の食材を使った郷土料理ですからね。
歴史や産業や暮らしが変わると、食べ物まで変わっていく。
食文化って時代時代を表す鏡のようです。
=食は鏡=
このように「食」って文化・土地・風土などに強く影響を受けています。
日本料理と刺身の関係
中華料理と油の関係
イタリア料理とパスタの関係
フランス料理とソースの関係
などなど
そこには必ず理由があってそれは理にかなったものです。
食を通すと色々なものが見えてきます。
ただ、それは食に限ったことではありません。
全てのものは地域や土地に根付いて発展してきました。
ただ、ここでは食を通して世界を覗いてみたい。
それは「食」って生物にとって絶対に欠かせないものだから見える範囲も広い。
違いも色々。
そんな食を通して世界や文化を見ることが「ガストロノミー」だと思っています。
なんかガストロノミーという言葉って
格式みたいなのをイメージするじゃないですか。
実際そんな意味合いで使われてもいますから。
でも「美食」「高級料理」=ガストロノミーでは無いと思っています。
ガストロノミーの中に美食も高級料理もある。
ここでは私の思うガストロノミーの世界をもっと身近にもっと易しく共有できたらいいな~と思います。
こんな言葉があります。
「どんな物を食べているか言ってみたまえ。
君がどんな人であるかをあててみせよう」
これはガストロノミー=美食学の大家
ブリヤ・サヴァラン(仏の法律家)が1825年に書いた本に書いてある言葉です。
「何言ってんだ」と思うかもしれませんがこれあながち間違って無い気がします。
そんなガストロノミーの世界を一緒に歩いてみませんか?
なんて、ラパンの話からずいぶん遠くまで来ちゃいました。
イベリア半島の自然環境があり、
古代ローマがあり、
農村の暮らしがあり、
パエリアがあり、
日本のうさぎ文化
そして一皿の料理から見える世界まで。
全部知る必要なんてありません。
「へぇ、そんな話があるんだ。」くらいで十分。
でも、それを知ってから食べる料理は、今までとは少し違って見えるかもしれません。
まぁ、ここまで書いておいていうのもなんですが
難しいことは考えなくていいと思います。
だって食事ですから。
自分が美味しいと感じた物を楽しく食べたいですね。
むずしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをおもしろく
おもしろいことをまじめに
まじめなことをゆかいに
そしてゆかいなことはあくまでゆかいに
そんな気持ちで食を楽しみたいですね。
長文お付き合いいただきありがとうございました。
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Bistro むじか
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