シンプルだから、むずかしく・やさしく・おもしろく・うつくしい
板橋にある「Bistroむじか」です。
今日もちょっと真面目に、でも堅苦しくなく料理と文化の話を書いてみました。

フランス料理と日本文化に共通する「引き算の美学」
フランス料理と聞くと、なんとなく「手の込んだ料理」や「複雑なソース」、
華やかな盛り付けをイメージする方も多いかもしれません。
確かにフレンチと聞いてイメージするであろう
宮廷フランス料理は色々な要素を足して作り上げる料理なので
その感覚は間違っていません。
でもあくまで宮廷料理が複雑だっただけで
フランス料理って、驚くほどシンプルだったりします。
鍋一つで出来る物も多いですからね。
塩、火入れ、タイミング。
素材の声を聞きながら、余計なものを足さず、ただその美味しさを引き出す。
ただ実はその基本に忠実であることは、料理人にとって最も難しく、そして最も面白い部分なのかもしれません。
削ぎ落としたからこそ見える素材の輪郭。
その潔さが、料理の世界でも一つの美しさになります。
2025年の2月に閉店してしまった三田「コートドール」の斉須シェフのスペシャリテ
「野菜のエチュべ」はその際たる料理だったと思います。
侘び寂びとエスプリ — 二つの文化に共通するもの
以前、フランス人のお客様とお話ししていて、
「エスプリってどんな感覚ですか?」と聞いた事があります。
その時の答えが
「行き着く所は日本の侘び寂びと同じかなぁ」
でした。
その言葉を聞いた時、自分の料理に自信を持つ事が出来ました。
いわゆる「フレンチレストラン」での修行経験がない私は
果たして自分の料理をフランス料理と感じてもらえるのか?
とずっと感じていました。
しかし別のお客様に
「伊藤さんの調理って侘び寂びがあるよね」
と言って頂いた事があったので、2つの話が結びつき
「あぁ、これでいいんだ」と感じる事が出来たのです。
その自信はフランス料理とか日本料理とか
そういうカテゴリーではなくフランス料理に魅せられた
「私の料理」の確立でした。
さて、エスプリの話に戻ります。
日本の侘び寂びと、フランスのエスプリ。
文化も歴史もまったく違うはずなのに、どちらも「引き算の美学」や「余白の美しさ」を大切にする感性を持っています。
・やりすぎない
・語りすぎない
・盛りすぎない
そうすることで、受け取る側の想像や感性に問いかける。
その余白こそが、世界を豊かにする——そんな考え方が共通しているように思います。
小さな一皿に宿る世界
私が料理をするときに意識しているのが、まさにそういう感覚です。
美味しさはもちろん大事。でもそれだけじゃなくて、ほんの少しの遊び心や、
言葉にならない余韻、控えめな美しさを感じてもらえたら嬉しい。
一見するとシンプル。
そしてシンプルだからこそ感じる事のできる奥深さ。
そんな料理をつくり続けたいと思っています。
引き算のフランス料理
料理は足し算の世界にも、引き算の世界にも美しさがあります。
でも「引き算」は、ごまかしがきかないからこそ、と技術と向き合う真剣勝負。
それは日本にも、フランスにも、
きっと世界中の美しい文化に通じるものなのかもしれませんね。
私の料理のテーマは「引き算のフランス料理」。
ここに辿り着ける様に日々料理をしています。
Bistroむじかの料理には、そんな小さな精神(エスプリ)が込められています。
あなたの好きな「シンプル」な物はなんですか?
今日もお読み頂きありがとうございました。
自然派ワインとフレンチ『Bistroむじか』
東京都板橋区板橋1-42-10-1F
03-4285-5217