熟成肉に魅せられて
〜赤身肉の熟成を科学の視点で見たみたら〜

こんにちは。
板橋・自然派ワインとフレンチ「Bistroむじか」です。
「Bistroむじか」では肉の焼き方にこだわりを持っています。
でも、今日は焼き方ではなく
その手前の「肉」についての話です。
最近、熟成した鹿肉の美味しさに魅了されています。
深い味わいと昆布締めした魚のようなネットリ感
そして
サクッとした歯切れの良さ。
熟成させていない
フレッシュな鹿肉も美味しいですが
もうこれは別次元の感動的な体験でした。
そこで熟成ということについて
少し掘りさげて見たいとおもいます。
さて、
ここ数年で「熟成」と言う言葉が定着したように思います。
とはいえ「熟成」とはどう言うこと?
を理解している人は少ないかもしれません。
~熟成と発酵の違い~
熟成とは・・・
===
素材の持つ酵素の働きを利用して
タンパク質がアミノ酸に代わる過程などで
風味や食感が向上すること
===
と言った感じですね。
対して
発酵とは・・・
===
食材の持つ「酵素」による変化である熟成とは違い
酵母などの微生物の力を使って
成分の分解や生成を行う
===
ことです。
どちらにしても
安全に行うには環境が大切です。
ちょっとしたボタンのかけ違いは
「腐敗」と言う似て非なる物に仕上がります。
「Bistroむじか」では、時に熟成した赤身肉を提供してますが
その熟成肉は保管の過程で自然に仕上がった「熟成肉」です。
そんな熟成肉をここでは、
科学的視点で見てみようと思います。
最後には家庭でも安全にお肉を保管するための工夫も紹介します。
熟成肉は肉好きにとって魅力的ですよね。
その味わいは肉の種類によって多少違います。
だから面白い。
牛肉は脂肪が多く、
熟成で柔らかさと旨味が増します。
鴨肉は脂と赤身のバランスにより
香りや風味の深みが生まれます。
鹿肉は熟成が進むと歯切れが良くなり、
ネットリ感が出るのが特徴です。
このネットリ感は熟成魚や昆布締め魚のねっとり感と似ており、
嫌な印象はありません。
この時に肉の中ではどんな変化が起きているのでしょうか?
赤身肉の熟成では、肉の軟化(解硬)・多汁性の向上・独特の噛みごたえや
舌触りの形成が主に現れます。
これらは、肉本来の酵素作用、タンパク質の分解、
水分含有量の変化により引き起こされます。
1
肉の軟化(解硬)
熟成の第一目的は、と畜後に硬直した筋肉を柔らかくすることです。
筋原線維(アクチン、ミオシンなど)や結合組織(コラーゲン)
を分解するプロテアーゼが活性化し、筋繊維の結合が弱まります。
Z線やコネクチン網目構造の分解が進むことで、
噛んだときに「しっとりした食感」が得られます。
カルシウムイオン(Ca²⁺)がプロテアーゼ活性を高める役割も果たします。
※Z線やコネクチンの説明は省きます。
(難しくてよくわからない。。。)
筋繊維の繋ぎ目や筋繊維の中のタンパク質の繋がり方みたいな
イメージで良さそうです。
2
多汁性の向上
ドライエイジングでは水分が蒸発し、うま味成分(アミノ酸やペプチド)
が凝縮されます。
干し葡萄が甘くなるのと同じです。
これは肉の保水性(WHC)が関係しています。
肉の保水性はpHに影響を受けます。
と畜後に糖の分解により生まれる乳酸菌によりpHが低下し(酸性化)、
水分保持力や咀嚼時の肉汁放出に変化が生じます。
(phが下がると保水力も下がる)
その結果、食べる時の肉汁の量や感じ方が変わるのです。
3
噛みごたえと全体的な食感
筋原線維の分解により肉は柔らかく、とろけるような食感になります。
さらに熟成中の脂肪分解や酸化により脂肪膜がもろくなり、
口内で脂が流出しやすくなることも、柔らかさとジューシーさに影響するのです。
===
熟成方法による違い
===
~ドライエイジング~
無包装で温度・湿度・気流を管理して行う熟成方法。
水分蒸発により旨味が凝縮し、ナッツのような熟成香やロースト香が生まれるのが特徴。
ある領域以降は素人が手を出すと危険な熟成です。
傷んだ肉が好きな方はぜひお試しください。
~ウェットエイジング~
真空包装で冷蔵保存。軟化が主目的で、風味変化は控えめです。
専用の機器や場所がなくてもなんとかなります。
でも家庭用の冷蔵庫では危険かもしれません。
ちょっと小難しいですが
これで科学的な視点からみた熟成を
ざっくり理解できたと思います。
さてここからは私がその味わいにびっくりした
鹿肉の熟成も
酵素によるタンパク質分解や
アミノ酸生成により、
柔らかさ・旨味・風味が向上したんですね。
ちなみにお店では熟成を目的とするよりも
保管の過程で起こる熟成を楽しんでいただいています。
ウェットエイジングになりますが
真空はしていません。
以下の方法で行っています。
家庭でもできる方法ですが
熟成目的ではなく
保管方法という意味で行ってください。
家庭用冷蔵庫は開け閉めによる温度変化も大きく
温度管理が重要な保管や熟成には向きません。
なので早めに食べてくださいね。
腐敗して食材を破棄なんてことになったら
地獄行き確定ですよ。
ビストロむじかのお肉の保管(熟成方法)
重要なのでもう一度書きます。
熟成は腐敗リスクが高いため、家庭で試すことは推奨しません。
しかし「保管」の工夫で安全に楽しめます:
1. 肉に軽く塩をして肉の中の自由水を抜く
2. ジップロックに入れて油に浸して空気を抜く
3. 氷と水を張ったタッパに入れ冷蔵庫で保管
(タッパの中の冷水は3度以下にします)
この方法なら、家庭用冷蔵庫の温度変化や開閉の影響を受けにくくなります。
保管方法として試して見たくださいね。
美味しくお肉を食べたい場合は
最終的にプロに任せるのをオススメします。
熟成肉などの肉の魅力は、食べることで初めてわかります。
お店での熟成肉を味わいながら、
科学的に理解した食感や旨味の変化を体験してみてください。
家庭での保管方法も参考にしつつ、
「食に好奇心を持つ」楽しさをぜひ味わってくださいね。
最後に、美味しいお肉を食べたいなら
家でも焼肉屋さんでもいいと思いますが
「美味しくお肉を食べたい」なら
技術と知識を持ったプロが焼く店に行く事をオススメしますよ。
ご自宅の近くにぜひ見つけてみてくださいね。
もしシェフが自分の焼いた肉を見て
ニヤニヤしていたらその店は間違いないと思います。
だって、美味しそうに焼けた肉って
笑顔しか生み出さないですから。
お読みいただきありがとうございました!
Bistroむじか
東京都板橋区板橋1-42-10 レオ板橋101
03-4285-5217