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=素材と対話するということ=

板橋にある「Bistroむじか」です。
今日もちょっと真面目に、でも堅苦しくなく料理に込める想いを綴ってみました。

美味しい料理を作る上で大切な物

美味しい料理を作る上で欠かせない物。 

なんだと思いますか?

 腕・道具・素材・調味料…そして「愛情」。 色々ありますね。

今日はその中でも大きな比重を占める「素材」について書いてみました。

どんなに腕があってもどうしようもない事があります。
わかりやすくいえば(かなり極端な例ですが)腐ってしまった食材はどんな料理の天才でも”よみがえらせる魔法”はないわけです。腕は素材を活かす為に必要な物なんです。だから素材は大事。

ですが…

素材が良ければいい!

…と言う事ではありません。これが料理の面白いところ。

素材という観点から見ると、なんとなく勘違いされていそうなのが「刺身」や「寿司」、洋食でいえば「カルパッチョ」。

「あれって、ただ切っているだけでしょ?」 と思っている方もいるのでは?

いえいえ、大違い!

素材がより美味しいタイミングを見計らって、さらに包丁を入れる方向を見極める。
どんな食感で食べて欲しいのか?繊維に沿って切るか?断ち切るか?薄く切るか?厚く切るか?

どうでしょうか? 

もう「=ただ=切っているだけ。」とは言えないですよね。(もし「ただ切っているだけ」なら、みなさんの晩御飯もミシュランの星付きレストランもほとんど変わらないはず…怖い世界ですね)

これはどの料理にも当てはまります。

「この食材はどの様な味がするのか?」 「どうすればもっと美味しくなるか?」 「この素材を活かすにはどんな料理にするのがいいのか?」

そんな事を考えているわけです。「素材主義」…とでも言うんですかね。(かっこいい名前をつけたくなる気持ちはわかります)

この「素材主義」という言葉は「素材の味を活かす事を重視する料理の考え方」。
「素材の味を生かせ」と言った北大路魯山人の主張も大きな影響を与えていると言われています。名言と共に食器を投げつけた…という伝説も残っているそうですが、素材と向き合う真剣さの表れだったと言う事、、、ですかね。(真似はしませんのでご安心を)

「この素材の味を生かす」という考え方は1970年代にフランスで起きたヌーベルキュイジーヌに多大な影響を与えています。ルネサンス以降ヒューマニズムが根付いているフランスでは、色々と手をかけて一つの素材から別の物を生み出すような感じだったようです。

もちろんそれだけでは無く、フランス料理は内陸部のパリを中心に発展したわけですから、輸送に時間がかかり素材の鮮度を重視した料理を作るのが難しかったという事情もあります。

以前、辻静雄さんの本を読んだ際、中世のフランス料理のレシピが書いてあったのですが、どんな味になっているのかイメージ出来ない料理がありました。「それ、美味しいの?」と言う不安すら感じさせない、私達の思考を止めるほどのインパクト。

この例はかなり特異な者ですが、フランス料理を体系化したと言われるあのエスコフィエの「LE GUIDE CULINAIRE」に書かれた料理も今の物とはかなり違う物が多くあります。良い悪いでは無く、当時そういうものだったということです。
実際この時のレシピが発展して今の料理があります。

そして、流通の発展と共に素材に注目した料理を作る事が可能になって来た今、フランス料理は素材を活かした料理になりました。もともと私の印象では、フランス料理は素材の持ち味に加え、調理法や調味料によって新たな魅力を創造する技術に長けていると思っています。一方、和食は素材本来の味わいを最大限に引き出す技術が優れています。

素材本来の力を引き出す和食の考え方を取り入れながら、フランス料理独自の技術で味わいを高めているのですから、その美味しさは必然と言えるでしょう。(これぞ国際結婚で生まれた美味しい子供…というような感じでしょうか)

素材との対話が大切

例えばトマト一つを例にとっても、その日の状態やどの様に召し上がって頂くかによって塩だけで提供するか、オイルをかけるか、何か別の食材と合わせるか、あるいはじっくり火を入れるか、さっと焼くか、どんな食感でどんな香りと楽しんでもらうか、様々な要因でどう調理するかの判断は変わります。

これが素材との対話です。(素材が「今日は甘いから塩だけでOKよ~」とか「今日は酸味が強いからほんの少し砂糖と合わせて~」とか話しかけてくるんです。幻聴ではありません…と思います)

この対話を重ねて料理という形で素材への敬意を表現する。こんな対話を重ねて「食材=自然」とお客さんをつなぐ仲介者としての役割が私達料理人です。

作業や調理に追われるとついつい目の前の事に目が向きがちですが、しっかりと自然への敬意を心に刻んで日々を過ごしたいと思います。

なんか生意気な事を言っていますが、そんな想いで料理に向き合っています。

——これが、Bistroむじかが考える「素材との対話」です。